冷蔵庫とカビ

冷蔵・冷凍しても、カビは死なない

1960年代に一般の家庭に冷蔵庫が普及、1965年には普及率が50%を超え、食品の保存方法は大きく変化しました。

冷蔵庫は、庫内の温度を下げて食品を冷やし、それによって細菌やカビの生育を抑えます。そのため、常温で保存するのに比べて、食品の日持ちが長くなります。

でも、これは「冷蔵庫に入れればカビ死ぬ」とか「冷蔵庫に入れることで殺菌される」ということではありません。もちろん、庫内の温度が低いほど、カビや菌の増加は抑えられますが、全く増えないわけではありません。冷蔵庫は殺菌するわけではないので、カビや病原菌の多くは死滅することなく、冷蔵庫の中でかなり長期間生き続けます。冷蔵庫に入れておけば安心、ということではないのです。

冷蔵庫内の5度くらいの温度では、カビの生育は防止できません。低温でもゆっくりと増殖していきます。カビとは無縁そうな野菜でも、冷蔵庫に放置し続ければカビが生えます。

冷蔵庫は食品の保存にとても有効ですが、完全ではありません。過信は禁物です。

保存する期間に注意して食べきるようにしましょう。

冷蔵庫のパッキンに生えるカビ

カビ対策においては浴室と比べると見落とされがちな冷蔵庫ですが、冷蔵庫の扉のパッキンの部分にカビが生えやすいことは、以前よりもよく知られるようになってきました。

カビは、冷蔵庫では生えても、冷凍庫では生えないはず。でも、冷凍冷蔵庫では、冷凍庫のパッキン部分にもカビがしばしば見られます。冷蔵庫扉より、冷凍庫扉のパッキンの方がカビの多いことさえあるほど。これはどういうことでしょうか。

冷蔵庫や冷凍庫のパッキン部分は、外気と接することが多く、その部分の温度は庫内よりも高くなります。そのため結露が発生してカビが生える、という仕組みです。冷蔵庫より冷凍庫のパッキンの方が冷えやすく、発生する結露量は多くなります。この結露水が凍らない場合、これが水分源となってカビ繁殖の一助となるわけです。

パッキンが黒くなる主な原因は、菌糸の黒いクロカワカビである場合が多いようです。クロカワカビは、比較的低温でもよく生長します。冷蔵こでカビを調査すると、低温で生えるアオカビも多く見られるそうですが、菌糸が透明なためあまり目立たないとのこと。

パッキン部分は、蛇腹状になっていて水や汚れが溜まりやすい場所。カビの栄養分と水分、温度と条件が揃うと、カビが生えてしまいます。食品を入れる場所ですから、こまめに掃除して、カビが生えないようにしたいものです。

カビを生やさない!冷蔵庫の使い方&お手入れの方法

冷蔵庫は食品を保存する場所。衛生管理にしっかり気を配りたいものです。使い方やお手入れの方法次第で冷蔵庫にはカビが生えてしまうもの、という前提で、冷蔵庫にカビができるだけ生えないよう使い、お手入れしましょう。

ポイントは3つあります。

  1. 定期的に掃除、除菌
  2. 開閉時間を少なく、短く
  3. 冷蔵庫に物を詰め込みすぎない

この3つのポイントについて説明します。

1.定期的に掃除、除菌

冷蔵庫を清潔に保つためには、定期的に(できれば月に一度)きっちりお掃除するのがおすすめです。
冷蔵庫掃除の手順

  1. コンセントを抜き、中を空にする
  2. 冷蔵庫内とパッキンの汚れを拭いて落とし、扉を開け放って乾燥させる
  3. アルコールを染み込ませた布で拭く

ただ、これを実行するのは結構大変。
家庭で日常的に行うなんて無理!という人もいるかもしれません。

カビの生えにくい冬の間は頻度を少し落とし、カビが生えやすくなる春先から秋にかけては必ず毎月掃除&お手入れする、とメリハリをつけるのも一案です。

2.開閉回数を少なく、開放時間を短く

冷蔵庫の扉のパッキンの部分にカビが生えることは比較的よく知られています。見たことがある人も結構いるかもしれません。

冷蔵庫の扉を開けると、外気が入り込んで庫内の温度が上がります。また、パッキン部分は外気と接することが多く、温度は内部より高くなりがち。扉を開放している時間が長くなったり、頻繁に開け閉めしていると、冷蔵庫の中で結露が発生しやすくなり、冷蔵庫の内部やパッキンの部分にカビが生えやすくなってしまいます。

冷凍状態ではカビは生えないはずですが、冷凍冷蔵庫では冷凍庫のパッキン部分にもカビが生えることがあります。冷蔵庫扉のパッキンよりむしろ冷凍庫扉のパッキンの方がカビの多いこともあるほど。これはどういうことでしょうか。

実は、冷凍庫扉のパッキンの方が冷蔵庫扉のパッキンより冷えているため、発生する結露量が多くなりがち。凍らない部分にこの結露水ができてしまうと、これを水分源としてカビが繁殖してしまいます。

なお、パッキンが黒くなる主な原因は、比較的低温でもよく生長するクロカワカビである場合が多いようです。専門家等が調査すると、低温でも生えるアオカビも多いそうですが、菌糸が透明なためあまり目立たたないとのこと。

「見えないけど生えている」ってイヤですよね。
冷蔵庫を開け閉めする回数を少なく、開放する時間を短くするよう意識して、カビの生えない冷蔵庫を目指しましょう!

3.冷蔵庫に物を詰め込みすぎない

冷蔵庫の中は、ある程度の余裕を持たせましょう。

上手な入れ方の主なポイントは、

  • 庫内の利用は「7割」程度まで
  • 食品と食品の間にある程度隙間を空ける(冷蔵庫の奥の壁が見える程度)
  • 冷気吹き出し口を塞がない

の3つ。

物を詰めすぎると、庫内において冷気の循環が悪くなり、冷え方が弱くなってカビの繁殖に有利になります。また、冷蔵庫の中に物がたくさん詰まっていると開放時間が長くなりがちになって冷気が逃げ、結露しやすく、冷蔵庫の内部やパキイン部分にカビが生えやすくなってしまいます。

しかし詰め込みすぎなければ、冷気の循環が良くなり、かつ食品の出し入れがスムーズになって扉の開閉時間を短くすることもできて、まさに一石二鳥。さらに電気の節約にもなるので、一石三鳥と言ってもいいかもしれません。

一方、冷凍庫は食品をたくさん詰めて使用した方が、食品自体が保冷材の役目を果たして庫内温度が上昇するのを防いでくれるため、多めに入れておいた方が良いとされています。ただし、食品の消費期限が過ぎてしまわないように、冷凍庫の中身をきちんと把握できるように整理しておきましょう。

意外な盲点!? 自動製氷機

とても便利な自動製氷機。
でもお手入れを怠ると、給水タンクや給水経路、製氷皿にカビが発生することがあります。

給水タンクに水を溜めておくと自動的に氷ができるこの便利な機械の問題点は、給水タンクに入れた水を長期間溜めておくと、ぬめりやカビが発生する場合があること。水道水であれば時間が経つに連れて水の中の残留塩素が減ってカビが生えやすくなるし、ミネラルウォーターを使えば水道水よりもカビが生えやすくなってしまいます。冷蔵庫のタンクの温度条件はカビの生育可能な範囲なので、注意が必要です。

給水タンク等でカビが発生しているとカビ混じりの氷ができてしまいます。氷詰めになったカビは、氷の中で生育することはありませんが、しばらくの間は死なずに生きていると考えられます。カビ混じりの氷を食べないために、カビが生えないように自動製氷機のお手入れを行いましょう。

自動製氷機のお手入れポイント

  • 給水タンクの水ををこまめに取り替える
  • 取り外しできる部品を冷蔵庫の取扱説明書に従って定期的に洗う
  • 長期間氷を作らないときも冷蔵庫の取扱説明書に従って手入れをする

給水フィルターが抗菌処理されているとしても安心せず、定期的にお手入れをして清潔を保つようにしたいものです。

冷蔵庫のカビ汚染、No.1 は「野菜室」

冷蔵庫の中で最もカビも汚染されている「野菜室」

冷蔵庫内のカビの発生について調べたところ、カビによる汚染がもっともひどいのは野菜室だったという調査結果が複数あります。

これらの調査ではほぼ一致して、

  • 野菜室(野菜室内棚)
  • 冷蔵庫棚(冷蔵庫内底)
  • 卵ケース(卵置き場底)

においてカビが多く検出されており、中でも野菜室では多く検出されたのだそうです。

野菜にはカビがつきもの

露地にしてもビニールハウスにしても、野菜をはじめとした農作物の成育環境中には多くの場合、様々なカビの胞子が存在すると考えていいでしょう。そのため、多くの野菜は常にカビに汚染されていて当然であり、そうした野菜が冷蔵庫を汚染しているであろうことは容易に想像できます。

また農作物は、生育環境中だけではなく、収穫・貯蔵・輸送・保管のどの段階でも、カビに汚染されていると言っても過言ではありません。冒頭で紹介した調査では、実験に使用するために購入した野菜すべてからカビが検出されたそうです。

野菜室は通常、冷蔵庫より温度が高めに設定されているため、冷蔵庫よりもカビが繁殖しやすい環境となっています。どの野菜や果物も保存期間が長くなればカビが生えるもの、という前提で、購入したらすぐに下ごしらえ・調理するなどして、早めに消費するのが良いでしょう。

カビの生えた野菜、食べても大丈夫?

カビの生えた食品は食べないようにしましょう。
カビの生えた部分を削って食べたら大丈夫だった、という経験のある人はたくさんいるかもしれませんが、イコール「カビが生えた食べ物を食べても大丈夫」ということではありません。

「加熱すれば大丈夫」と思う人もいるようですが、それも間違い。
カビ自体は熱によって破壊されますが、カビが産生するカビ毒は加熱しても破壊されず、その毒性は残ります。

カビは種類によって様々な代謝産物を作り出します。ペニシリンなど有益なものもありますが、人を含む動物にとっては有害なものが多く、その有害なものを総称して「カビ毒」呼んでいます。現在では300種類以上ものカビ毒が確認されていて、強い発がん性を持つもの、肝臓障害を引き起こすもの、人や家畜を死なせてしまうものなど、影響は様々です。

有害なカビ毒で汚染された食物の摂取はカビ毒中毒症の主な原因となり、健康や生死に関わる問題となることもあるため、

  • 食品、食材を購入したらすぐに食べる
  • 保存する際には、加熱または冷凍する
  • 加熱後もなるべく早く消費する
  • 冷蔵庫に長期間入れっぱなしにしない

といった工夫をして、カビが生える可能性のある環境(冷蔵庫も含みます)で長期保存しないように心がけましょう。
冷蔵庫自体はもちろん冷蔵庫の周囲、キッチン全体を常に清潔にしておく、ということも有効です。

参考文献
吉田 政司『カビを防いで快適生活』(2010年10月 幻冬舎ルネッサンス)

浜田信夫『人類とカビの歴史 闘いと共生と』(2013年6月 朝日新聞出版)

本防菌防黴学会編『菌・カビを知る・防ぐ 60の知恵 プロ直伝!防菌・防カビの新常識』(2015年6月 化学同人)