麦角アルカロイドは何に発生するか

麦角アルカロイド類とは麦角菌が産生するかび毒の総称です。麦角菌とはバッカクキン科バッカクキン属の子嚢菌の総称、アルカロイドとは窒素を含む塩基性の植物成分の総称で、植物塩基とも呼ばれます。麦角アルカロイドにはリゼルグ酸やエルゴタミン、エルゴメトリン、エルゴクリスチンなどが挙げられます。麦角菌は主に小麦やライ麦・大麦・エンバクなどのイネ科の植物に寄生することがわかっていますが、特にライ麦が汚染されやすいことが明らかになっています。また、麦角菌に感染された種子は黒く変色し、まるで真っ黒な爪のように見えるため、海外では「悪魔の爪」と呼ばれることもあります。

麦角アルカロイドの危険性

エルゴタミンは循環器系や神経系に様々な毒性を示すことがわかっていて、血管を収縮させるため、手足が壊死することもあります。このため、中世ヨーロッパでは「聖アントニウスの業火」として恐れられていました。また、脳の血管を収縮させることで、脳内が血流不足となり、痙攣、意識不明・精神異常を引き起こし、死にいたることもあります。また妊婦の場合は、子宮収縮による流産のおそれもある一方で、その特性を利用して、古くから堕胎や出産後の止血に利用されることもありました。

中世ヨーロッパでは麦角菌に汚染されたライ麦パンを食べたことによる麦角中毒による騒動がいくつかあります。アメリカ・マサチューセッツ州セイラム村で200名近い村人が魔女として告発された「セイラム魔女裁判」は、麦角菌に汚染されたライ麦パンを食べた若い女性が幻覚症状に陥ったことが原因ではないかという説もあります。日本では昭和18年にパンを食べた妊婦が流産するという事件がありましたが、これはヒトに対しての麦角中毒によるものと考えられています。